医療法人の役員について説明してください

 

医療法人とMS法人は取引関係にあって、利害が相反する立場同士となります。つまり、「医療法人」と「MS法人」の代表者(理事長と代表取締役)が同一人物であると、利害相反する立場を同一人物がおこなうこととなります。取引をおこなう両法人の代表者が同一のときには、民法108条の自己取引・双方代理に当たります。医療法人とMS法人の取引関係が単なる債務の履行に当たる場合、もしくはあらかじめ理事会・取締役会で許諾がある、取締役会で承認がある場合などは、同条2項や判例等によって双方代理禁止の定めは適用されません。しかし、医療法人とMS法人の関係をみる際には、医療法54条の主旨とする医療法人の非営利性という観点からすると、医療法人理事長とMS法人の代表取締役は兼務しないことが重要です。
また、理事は法人から業務執行につき「委任」を受けた形になっており、利益相反する2法人の代表者が同人物であるときは、医療法人はその意思決定において原則である非営利性を貫く必要があります。一方で営利法人であるMS法人は、会社という性質上利益(営利)を追い求めることになります。したがって、同一人物が両法人の(理事会取締役会等の審議を経ていても)代表権・業務執行権を持っているために、医療法人において営利法人の影響が出る可能性があります。これは、医療法人の大原則である非営利性に抵触するため、やはりMS法人の代表取締役は医療法人の理事長との兼任を避けることが賢明でしょう。
民法上では、理事は対外的に法人を代表するとされますが、医療法人においては、定款により理事長だけが医療法人を代表することとなっています。医療法人の平理事(代表権のない理事)がMS法人の代表取締役を兼ねることは、必ずしも非営利性を阻害することはないでしょう。それに対して、医療法人の理事長がMS法人の平取締役を兼ねることも同様のことがいえます。つまり、法律では平理事がMS法人の役員を兼ねることは禁じられていません。しかし、医療法人とMS法人の取引の実態をみると、医療法人からMS法人に過大な支払いがなされているような場合もあり、MS法人の役員報酬が過大な場合には事実上医療法人の利益が分配されているとみられることもあります。このため医療法人行政の現場では、「病院・介護老人保健施設を経営する」医療法人とMS法人(その他取引のある営利法人)の役員の重複を認めない行政指導がなされています。各都道府県の手引書などには、取締役と理事の兼職を認めないと書いてあるものがあります。医療法人運営管理指導要綱の対象は、すべての医療法人ではなく病院・老人保健施設を開設する医療法人ですが、都道府県の指導内容は診療所に対しても同様の指導をしているケースもあります。しかし、通知(行政指導)はそれ自体が法的拘束力を持つものではないため、通知に反して理事と取締役を兼務してもそれが即違法行為にはなりません。よって、コンサルタント等によっては兼職を可能としていることもありますが、行政指導を受ける可能性があることはあらかじめ留意した上で役員構成を検討しましょう。また、厚生労働省は今後の方向性として、「医療法人とMS法人間に取引関係のある場合、あるいは医療法人が出資を受けている場合は原則兼務を認めない」という方針を示唆しています。医療法人の非営利性とMS法人の営利性とをきちんと管理することが重要なので、両法人にとってもっとも適切な選択肢を選びましょう。

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