医療法人の税務調査について説明してください
税務調査は、申告内容が正しいかどうかを帳簿などで確認し、申告内容に誤りが認められた場合や申告する義務がありながら申告していなかったことが判明した場合には、是正を求めるものです。税務調査は以下のような手順でおこなわれますが、従来からの運用を踏まえて、税務調査手続が国税通則法において法定化されています。この改正は、平成25年1月1日以後に新たに納税者に対して開始する税務調査について適用されます。医療法人化する場合、個人事業で使用していた財産は、税務上も医療法上も財産価値のあるもののみ引き継ぐことが可能です。価値がないと判断されたものは引継ぎを否認されることもあります。
(1)事前通知
税務調査に際しては、原則的に、納税者に対して調査の開始日時・開始場所・調査対象・税目・調査対象期間などを事前に通知します。その際、税務代理を委任された税理士に対しても同様に通知します。なお、合理的な理由がある場合には、調査日時の変更の協議を求めることができますが、税務署等が保有する情報から、事前通知をすることにより正確な事実の把握を困難にする、または調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合には、通知せずに税務調査をおこなうことがあります。
(2) 質問検査等
税務調査の際には、質問検査権に基づく質問に対して正確に回答し、調査担当者の求めに応じて帳簿などを提示または提出しなければなりません。質問事項に対し偽りの回答をした場合や検査を拒否した場合、または正当な理由がなく提示若しくは提出の要求に応じない場合、偽りの記載をした帳簿書類の提示・提出をした場合などについては、法律に罰則の定めがあります。また、質問検査権行使の一環として、調査担当者が帳簿書類などの提示または提出の要求をできることが法律上明確化されています。調査担当者は、税務調査において必要がある場合には、納税者の承諾を得た上で提出された帳簿害類などを預かることがありますが、その際には預り証が交付されます(預かる必要がなくなった場合は速やかに返還される)。なお、税務調査の調査担当者は、調査の際に身分証明書と質問検査章を携行し、これらを提示して自らの身分と氏名を明らかにするので、調査の際には確認しておきましょう。
(3) 取引先等への調査
税務調査において必要がある場合には、取引先などに対し質問又は検査等を行うことがあります。
(4) 調査結果の説明と修正申告や期限後申告の勧奨
税務調査において申告内容に誤りが認められた場合や、申告する義務がありながら申告していなかったことが判明した場合には、調査結果の内容(誤りの内容、金額、理由)を説明され、修正申告や期限後申告(以下「修正申告等」)を勧奨されます。この場合は原則として修正申告等を行うこととなります。
(5) 更正又は決定
修正申告等の勧奨に応じない場合は、税務署長が更正または決定の処分をおこない、更正または決定の通知書が送られてきます。なお、税務署長が更正または決定の処分を行うことができるのは、原則として法定申告期限から5年間です。
(6) 更正または決定をすべきと認められない場合の通知
税務調査の結果や申告内容に誤りが認められない場合や、申告義務がないと認められる場合はその旨が書面で通知されます。
(7) 再調査
修正申告・更正または決定をすべきと認められない場合の通知が行われた後でも、税務調査の対象とした期間について、新たに得られた情報に照らし非違があると認められるときは、改めて税務調査を行うことがあります。
最近は少なくなりましたが、医療業界は他業界と比べるとリベートや贈与などが多いです。特に多額の金銭が絡む設備の拡充などの場合には、パソコンや医療機器といったものが贈与されることもあります。数年前には、透析関連機器導入に際し、業者が附属設備の工事を無料でおこなっていたことが発覚し、透析実施病院と透析材料業者が集中的に調査を受けたこともあります。材料の供給業者と設備提供業者の間に整合性があれば、材料仕入価格の一部として否認されるかどうかは微妙ですが、役員へのパソコン等の備品贈与などがあると個人的使用に供するものとして否認されることもあります。そのため、医療機器や備品については定期的に棚卸しを実施し、業者から無償提供してもらった資産については合理的な説明ができるようにしておきましょう。近年では、親族役員の報酬や給与について指摘されるケースが増えており、親族役員に関しては、業務内容や勤務形態などが同ランクである他の職員の給与等と比べて合理性があることを説明できるようにするべきです。特に医療機関の場合は、報酬を受ける親族役員が看護師など直接業務に関連する資格を有しているかどうかは報酬の目安となります。
レセプトの発生から入金までの流れは、まず、診療行為をおこない翌月10日にレセプト請求、次に、翌々月下旬に入金および査定による入金の減額をおこない、そして、過誤分の訂正と再請求をおこないます。税務調査で問題にされることが多いのが、査定による減額の処理です。決算時に未収入金をいくら計上すべきかについては、減額となっても決算時には再請求できる可能’性があるため、原則的に、そもそものレセプト請求額で未収を計算して減額となったものも含めて計上しておきます。
社会保険診療以外にも、市町村の健康診断や労災保険、自賠實保険などの収入がありますが、市町村及び自賠責保険については特に留意が必要です。まず、市町村からの受託業務については請求項目が多く、入金のタイミングも長期になる場合があります。また、自賠責保険についても請求後6ヶ月以上経過するものも少なくないため、未収の計上漏れを指摘されることが多い項目です。決算時には請求管理簿のチェックを実施しましょう。
申告書を提出した後に、所得金額や税額等を実際より多く申告していたことに気付いたときには、「更正の請求」という手続により訂正を求めることが可能です。更正の請求書が提出された場合、税務調査によりその内容を検討して納め過ぎの税金があると認められたときには、税務署が「減額の更正」をおこなって納め過ぎの税金が還付されます。従来は1年でしたが、「更正の請求」ができる期間が法定申告期限から5年に延長されています(平成23年度税制改正)。例えば、調査の際には見つからなかった書類が後日見つかり、当初申告の内容が正しいことを証明できることになったとき等は、5年以内なら更正の請求ができます。ただし、これは法定申告期限が平成23年12月2日以後の国税に限り適用されます。平成23年12月1日以前に法定申告期限を迎える国税で、更正の請求の期限を過ぎた課税期間については、増額更正ができる期間内(5年以内)に「更正の申出書」を提出すれば、調査によりその内容の検討をして、納め過ぎの税金があると認められた場合に減額の更正をおこないます。また、税務調査等により税金の納付不足が指摘されて修正申告書を提出した場合、税務調査後に誤りが見つかったとしても従来は当初申告から1年経過後は更正の請求が不可能でしたが、請求期間が延長されたことにともなって調査官が修正申告の勧奨を行う際に、「不服申立てはできないが更正の請求はできることを説明し書面も交付しなければならない」こととなりました。そのため、税務調査に従って修正申告をしても再度検討した結果に誤りがあった場合には、原則5年間さかのぼって更正の請求をすることができます。