医療法人の消費税について説明してください
新たに設立した法人が、「課税期間の基準期間」における課税売上高が1,000万円以下の場合には、消費税の納税義務が免除されます。この基準期間とは、法人の場合は原則的に前々事業年度のことを指します。したがって、新たに設立された法人のように基準期間がない場合には、原則として消費税の納税義務が免除されます。また、2期目以降は特定期間の課税売上高でも判定されますが、個人事業者がいわゆる法人成りによって新たな法人を設立したようなときは、個人当時の課税売上高はその法人の基準期間の課税売上高に含まれません。これは医療法人の非営利性の徹底の観点から、施行後に認可申請を行い設立される社団医療法人は、出資持分のある医療法人が設立できないこととされているためです(平成19年4月施行の改正医療法)。これにともない、持分の定めのない医療法人の活動の原資となる資金の調達手段として、基金への拠出を募集することが可能となっています。持分の定めのない社団医療法人の事業年度開始の日における基金の額は、消費税法の定める「資本金の額又は出資の金額」に該当しないので、1期目の消費税は免除されます。
課税期間の前々年または前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下で、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書(消費税簡易課税制度選択届出書)を事業年度開始の前日までに提出している法人は、実際の課税仕入れ等の税額を計算することなく、課税売上高から仕入控除税額の計算を行うことができる「簡易課税制度」の適用を受けることが可能です。簡易課税制度は、仕入控除税額を課税売上高に対する税額の一定割合としますが、この一定割合である「みなし仕入率」は以下のように事業の種類によって異なります。なお、医療法人の場合は概ね50%となりますが、物品の販売等については80%、不要な機器の売却は60%と、異なるみなし仕入率を適用することになります。医療法人の場合、消費税の課税対象とならない社会保険診療などがあること、経費のうちに人件費など消費税の対象とならない金額の占める割合が大きいことなどから、簡易課税制度を選択する法人が多いです。
みなし仕入率
第一種事業(卸売業) 90%
第二種事業(小売業) 80%
第三種事業(製造業等) 70%
第四種事業(その他の事業) 60%
第五種事業(サービス業等) 50%
医療法人の場合、健康診断、自由診療などの消費税対象となる取引と、社会保険医療や労災など消費税の対象外の取引があります。消費税の対象とならないものは、健康保険法・国民健康保険法・老人保健法などに基づいて行われる社会保険医療給付金、身体障害者福祉法・生活保護法などに基づいて行われる公費負担医療給付金、労働者災害補懷保険法など基づいて行われる医療給付金、助産にかかる医療などの診療収入です。一方、予防接種委託料、診断書作成料、健康診断、人間ドックなどの自由診療収入は消費税がかかる売上となります。また医業収入以外の収入についても、自動販売機の売上手数料や公衆電話の回収料金等の売上などは消費税がかかります。その他、医療法人で使用していた固定資産を売却した場合の固定資産売却額なども、消費税の対象となります。消費税は一般課税・簡易課税どちらの制度を利用するのが有利か、といった基本的な点も含めて事前シミュレーションが重要なので、どの取引が消費税課税対象となるのかきちんと確認しましょう。
設備投資が多額にあった場合などは課税仕入が大きくなるため、免税事業者であっても課税事業者を選択することにより消費税の還付を受けることができます。新たに事業を開始した法人が課税事業者になるには、その事業を開始した日の属する課税期間の末日までに提出することで、その課税期間から課税事業者となります。この届出書を提出した事業者は事業廃止の場合を除き、原則的に課税選択によって納税義務者となった最初の課税期間を含めた2年間は免税事業者に戻ることは不可能です。免税事業者である設立初年度から課税事業者になるかどうかについては慎重に考えましょう。
平成25年1月1日以後に開始する年または事業年度については、基準期間の課税売上高が1,000万円以下(または基準期間がない場合)であっても、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合は当課税期間から課額事業者となります(特定期間とは、法人の場合は原則としてその事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間)。なお、課税売上高に代えて、給与等支払額の合計額により判定することもできます。たとえ設立2年目の原則免税事業者の期間であっても、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えそうな場合は、一般課税または簡易課税のどちらが有利かをシミュレーションしてあらかじめ届出を出しておくことも必要です。持分の定めのない社団医療法人の場合、原則として設立初年度の消費税は免税となりますが、多額の設備投資を行う場合や特定期間の課税売上高が1,000万円を超える場合など、課税事業者になる可能性もあります。消費税は将来的な事業計画も含め、どのやり方が有利なのか事前に税理士等と相談し、シミュレーションしましょう。