Archive for the ‘医療法人制度’ Category

医療法人の理事の報酬について説明してください

 

平成18年度の税制改正では、役員報酬、役員賞与など、法人が役員に対して支給する給与は「役員給与」とひとくくりになりました(以前は、法人税法上も役員報酬・役員退職給与の取扱いは原則損金算入、役員賞与は損金不算入となっていました)。この改正の背景には、会社法361条(取締役の報酬等)で「報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」と規定し、役員報酬、役員賞与ともに業務執行の対価として同規定に基づいて支給されることになったことや、企業会計上も「役員賞与に関する会計基準」(企業会計基準委員会、平成17年11月29日)により、役員賞与を発生した会計期間の費用として処理することになったことが挙げられます。ただし、役員に対する賞与(従業員で言うところの夏冬のボーナスのようなものなど)が無制限に認められたわけではありません。平成19年4月1日以後に開始する各事業年度において、「法人が役員に対して支給する給与」の額のうち、一定のものに該当しないものは損金の額に算入されない(したがって法人税の計算上、税金がかかってしまう)という規定に変更されました。なお、「法人が役員に対して支給する給与」からは、(イ)退職給与、(ロ)法人税法第54条第1項に規定する新株予約権によるもの、(イ)・(ロ)以外のもので使用人兼務役員に対して支給する使用人としての職務に対するもの、(ハ)法人が事実を隠ぺいしまたは仮装して経理することによりその役員に対して支給するもの、は除かれます。((イ)退職給与については役員給与には該当しないものの、従前通り「不相当に高額な部分の金額」を除いて原則的に損金へ算入されます。)
たとえ形式的に一定のものに該当する場合でも、不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入されません。損金算入できる役員給与としては、(1)定期同額給与、(2)事前確定届出給与、(3)利益連動給与(同族会社には認められていない)の3つのうちいずれかに該当しなければなりません。
(1)定期同額給与
・支給時期が1ヶ月以下の一定の期間ごとであること。
・その支給時期における支給額が事業年度を通じて原則同額であること。(業績の著しい悪化にともなう減額など一定の例外規定もある)
・事前の定めがあること。(議事録の作成等が必要)
(2)事前確定届出給与
・支給時期、支給額があらかじめ定められており、その内容に関する届出書を所轄税務署長に提出していること。
(3)利益連動給与
・業務執行役員のすべてに支給すること。
・算定方法が有価証券報告書に記載される利益に関する指標を基礎とした客観的なものであること。
・支給限度額が定められていること。
・すべての業務執行役員について算定方法が同じであること。
・同族会社には認められない。(損金算入できない)…など
このように、損金算入できる役員給与にはかなりの制限があります。利益が出たからといって事業年度の途中で増額するような役員給与は、「定期同額給与」の要件に当てはまらないこととなり、全額が損金不算入となります。役員に対する給与のうち、使用人兼務役目に対して支給する「使用人としての職務に対する部分」については、この規定を受けることはありません。使用人兼務役員とは以下の条件を満たす者を指し、医師以外の役員の場合は使用人兼務役員となる方もいるでしょう。理事長の奥様であっても該当する可能性があるので確認が必要です。
<使用人兼務役員の条件> (法人税法施行令第71条)
使用人兼務役員とは、役員のうち部長、課長、その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事する者を指しますが、次のような役員は使用人兼務役員となりません。なお、医療法人は医療法に基づいて設立された法人であり、医療法において剰余金の配当が禁止されているなど、会社法に基づき設立された営利法人とは異なり同族会社には該当しないため、医療法人は5については考慮する必要はありません。
1. 代表取締役、代表執行役、代表理事及び清算人
2. 副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員
3. 合名会社、合資会社及び合同会社の業務執行社員
4. 取締役(委員会設置会社の取締役に限ります)、会計参与及び監査役並びに監事
5. 同族会社の役員のうち一定の要件を満たす役員
役員給与は実務上、役員の職務内容や医療法人の収益状況や他の使用人との比較で決定されます。医師である理事に対する報酬決定のポイントは以下を参照してください。医師以外の役員に対する報酬も基本的には以下の条件と同じですが、医師である理事よりも医師以外の理事の報酬が高いというケースはほとんどないと思われるので注意しましょう。
(1)常勤か、非常勤か、職務内容に対して相当か
非常勤の理事に高額の支給をした場合は否認される恐れがあります。
(2)医療法人の収益状況・他の使用人との比較
法人の決算内容と比較して支給額が不自然でないか、他の使用人に比べて極端に高すぎないか等を判断します。
(3)同種同規模の医療法人の役員給与と比較
同種同規模の医療法人と比べて極端に高すぎる場合は、否認される恐れがあります。(ただし、院長が他の法人の役員の給与額を知っていることはほとんどないと思われるので、多くのケースを熟知している顧問税理士等と相談するとよいでしょう。)
一度決めた役員報酬の金額を「かなりの利益がでそうだから」といった理由で安易に上げることは、損金算入される役員給与の条件を満たさないため結果的に節税どころか法人税がさらに課税される可能性が高いです。前もってしっかりとした事業計画を立て、これに基づいて慎重に役員報酬の金額を決めることが重要です。

医療法人の有給休暇について説明してください

 

有給休暇は労働者が指定した時季に与えなければならず、有給休暇により事業の運営を妨げる場合には使用者に時季変更権が認められています。ただし、従業員の大半が同時期に請求した場合など判例等の動向をみても限定的であり、合理的な理由が無い限り付与しなければならないでしょう。年次有給休暇の計画的付与という制度は、従業員の有給休暇のうち5日を超える部分については、いつ使用するのかを前もって決定するものです。この計画的付与を導入する場合には、就業規則に規定すること、労使協定を締結することが必要です(労働基準監督著への届出は不要)。付与の方法としては、例えば年次有給休暇計画表による個人別付与や事業場全体の休業による一斉付与や班別の交替制付与等が考えられます。有給休暇があるにもかかわらず、職場の環境や雰囲気で有給休暇がなかなかとりにくいことや、その中で有給休暇を取得する者に対する不利益な扱いも問題となっています。有給休暇の取得者に対する不利益な扱いは禁止されているので権利は権利として認め、行使する側も状況に配慮できるバランスのとれた職場作りをおこないましょう。

医療法人の社会保険について説明してください

 

健康保険は、医師国民健康保険・歯科医師健康保険に加入しているケースが多く、この方が有利な場合が多いでしょう。そのため、診療所としては年金事務所に健康保険適用除外申請をおこない、厚生年金のみに加入することになります。この場合は、健康保険は医師国民健康保険組合・歯科医師健康保険に、厚生年金は年金事務所に申請手続をします。厚生年金の対象者は、常勤者および勤務時間が常勤者の4分の3以上のパートタイマーです(短時間パートタイマーは厚生年金の対象から外れます)。労働保険はそのままの形で法人に引き継がれますが、法人化したのち時間を置かずに退職した場合でも、個人診療所の勤務期間を合算した雇用保険が受給されます(変更の届出手続は必要)。院長先生や奥様が役員である場合は、原則的に雇用保険および労災保険の対象者ではありません。なお、平成8年に会計検査院が厚生年金未加入の医療法人や、代表者が未加入の法人などの検査をおこない、未加入が発覚した法人については検査月の1日付けで加入手続をおこなうことになりました。その後、医師国保の加入に際して、厚生年金の加入を確認することが増えています。
法人設立によるデメリットとしては、社会保険の強制加入によって義務付けられる社会保険料が増えることが考えられます。個人病院の場合は社会保険の加入が任意であるため、働く人が自分で国民健康保険と国民年金保険料を負担するケースが多いですが、法人設立後は今まで各自が負担していた社会保険料の半分を法人が支払うことになります。例えば、院長の事業所得1,700万円、青色専従者給与の妻の所得600万円、勤務医を含む従業員の給与1,500万円の診療所において、個人で運営している場合と医療法人化した場合の保険料の違いは以下のようになります。法人化することで社会保険料の法人負担額が増え、その分経費が増えるので税金が減ります。ただし、減少する税額と増加する社会保険料の法人負担額を比べると、社会保険料の方が多くなるので注意しましょう。
(1) 個人病院
国民健康保険料+介護保険料=60万円(市によって上限は異なります)
国民年金保険料15,020円×2人分×12ヶ月分=360,480円
合計 約96万円
(2) 医療法人
従業員分=163万円
院長と妻の分=171万円(個人負担額の171万円は別途、理事報酬から差し引きます)
法人負担額合計=334万円

医療法人の役員について説明してください

 

医療法人とMS法人は取引関係にあって、利害が相反する立場同士となります。つまり、「医療法人」と「MS法人」の代表者(理事長と代表取締役)が同一人物であると、利害相反する立場を同一人物がおこなうこととなります。取引をおこなう両法人の代表者が同一のときには、民法108条の自己取引・双方代理に当たります。医療法人とMS法人の取引関係が単なる債務の履行に当たる場合、もしくはあらかじめ理事会・取締役会で許諾がある、取締役会で承認がある場合などは、同条2項や判例等によって双方代理禁止の定めは適用されません。しかし、医療法人とMS法人の関係をみる際には、医療法54条の主旨とする医療法人の非営利性という観点からすると、医療法人理事長とMS法人の代表取締役は兼務しないことが重要です。
また、理事は法人から業務執行につき「委任」を受けた形になっており、利益相反する2法人の代表者が同人物であるときは、医療法人はその意思決定において原則である非営利性を貫く必要があります。一方で営利法人であるMS法人は、会社という性質上利益(営利)を追い求めることになります。したがって、同一人物が両法人の(理事会取締役会等の審議を経ていても)代表権・業務執行権を持っているために、医療法人において営利法人の影響が出る可能性があります。これは、医療法人の大原則である非営利性に抵触するため、やはりMS法人の代表取締役は医療法人の理事長との兼任を避けることが賢明でしょう。
民法上では、理事は対外的に法人を代表するとされますが、医療法人においては、定款により理事長だけが医療法人を代表することとなっています。医療法人の平理事(代表権のない理事)がMS法人の代表取締役を兼ねることは、必ずしも非営利性を阻害することはないでしょう。それに対して、医療法人の理事長がMS法人の平取締役を兼ねることも同様のことがいえます。つまり、法律では平理事がMS法人の役員を兼ねることは禁じられていません。しかし、医療法人とMS法人の取引の実態をみると、医療法人からMS法人に過大な支払いがなされているような場合もあり、MS法人の役員報酬が過大な場合には事実上医療法人の利益が分配されているとみられることもあります。このため医療法人行政の現場では、「病院・介護老人保健施設を経営する」医療法人とMS法人(その他取引のある営利法人)の役員の重複を認めない行政指導がなされています。各都道府県の手引書などには、取締役と理事の兼職を認めないと書いてあるものがあります。医療法人運営管理指導要綱の対象は、すべての医療法人ではなく病院・老人保健施設を開設する医療法人ですが、都道府県の指導内容は診療所に対しても同様の指導をしているケースもあります。しかし、通知(行政指導)はそれ自体が法的拘束力を持つものではないため、通知に反して理事と取締役を兼務してもそれが即違法行為にはなりません。よって、コンサルタント等によっては兼職を可能としていることもありますが、行政指導を受ける可能性があることはあらかじめ留意した上で役員構成を検討しましょう。また、厚生労働省は今後の方向性として、「医療法人とMS法人間に取引関係のある場合、あるいは医療法人が出資を受けている場合は原則兼務を認めない」という方針を示唆しています。医療法人の非営利性とMS法人の営利性とをきちんと管理することが重要なので、両法人にとってもっとも適切な選択肢を選びましょう。

MS法人のメリットについて説明して下さい

 

個人開業医や医療法人は、医療法によって業務が制限されて営利活動をおこなうことが禁止されており、これを補うために株式会社や合同会社を設立するケースがあります。このようにしてつくられた会社がMS(メディカルサービス)法人です。MS法人設立の流れとしては、会社基本事項の決定をした後に定款の作成・認証、資本金の払込み、そして設立登記申請をおこない会社設立完了となります。医療法人とMS法人とは同族関係にあることが多いことから、必ず契約書を作成して業務範囲や取引内容を明確にしておきましょう。MS法人は医療法人の経営を補う法人であり、MS法人を利用することで営利活動ができ(医療法に規制されないので多様な業務が可能)、以下のように所得の分散等のメリットを得ることが可能です。
・医療と医療行為以外との区分が明確となり、経営状況の把握が容易になる。
・保険請求等の医療事務をMS法人業務にすることにより、診療に専念することが可能となる。
・医薬品購入等の資金計画から解放される。
・業務委託料等を支払うことにより業務を分散でき、結果的に所得分散も可能となる。
・MS法人から家族等への給与の支払いが可能となる。
・MS法人に不動産を譲渡するなどにより、相続対策等も可能となる。
・利益の配当が可能となる。
デメリットとしては、事務手続が複雑になるので事務コストが上がる可能性があります。また、MS法人が黒字になった場合には事業税が増加しますし、MS法人との取引に合理性および妥当性が無い場合、取引そのものを否認される可能性があります。MS法人が医院から請け負う仕事として、以下のような業務があります。
・医院の受付、窓口業務
・医院の会計業務
・診療報酬請求事務
・医療機器や医療設備、車両などのリース
・医薬品や医療材料、医療機器、医療器具、また医療消耗品や衛生消耗品などの仕入れ、販売および在庫管理
・経営管理業務
・経営計画や資金計画の作成および管理指導
・医院の設備管理・保守
・清掃業務や衛生業務
・給食事務や食堂の経営
・歯科技工の請負
・土地建物の貨貸業務や不動産管理業務

医療法人のM&A について説明してください

 

M&Aは近年、企業再生の手法として活用されることが増えており、医療法人においても診療点数のマイナス改定や薬価の低下など、厳しい経営環境の中グループ病院として事業を拡大する方法として注目されています。医療法人の場合には負債が多額であっても、病院の敷地の利用価値が高い、病床の許可数が一定水準以上あるといった際には、会計数値では表せない価値が認められます。また、病院事業拡大のときには許可病床数が最も大きな制約となることから、他の医療法人を買収あるいは合併することによって病床数を増やすことは検討すべき有効な選択肢です。
合併・買収する側のメリットとしては、価値ある不動産や許可病床数等を手に入れることで、事業の拡大が比較的容易に実現できます。清算型の場合には、資産を相場より安く買い取ることができる可能性もあります。法人設立時の設定に問題があった場合や過去の債務が解消できず負担になってしまっている場合、あるいは業績の低迷などによって経営に行き詰まっている医療法人では、M&Aによって資本注入を受けることは経営改善を図るための一つの選択肢となります。ただし、この場合には経営権の譲渡が条件となることもあるので注意しましょう。清算型M&Aのメリットとしては、単純に事業を廃止してしまうと地域住民に対する医療活動や従業員の雇用の継続は断念せざるを得ませんが、M&Aによって他の医療法人に売却し、事業が引き継がれることになればその心配が解消されます。また、資産が有効に活用されるのは好ましいことですし、買い手側も債務をカットできて安く取得できる可能性があります。債権者のメリットとしては、経営能力の高い経営者を迎え、また資本注入も受けて事業が発展していくことは、医療法人の債権者にとっても保有する債権の回収の可能が高まることになります。
医療法人の合併は、医療法第57条によって要件が規定されており、その形態は社団か財団のどちらかとなります。医療法人は会社と違って法人分割は不可能です。医療法人社団は、総社員の同意を条件として他の医療法人社団と合併することができます。持分が定められている医療法人社団の場合には、その医療法人の持分を取得する形で合併が成立します。医療法人財団は、寄附行為に合併を認める記載がある場合に限り理事の3分の2以上の同意をもって、合併することが可能です。しかし、寄附行為に別段の定めが規定されている場合には要件とならないため、医療法人財団の合併においては寄附行為の記載によって変更手続が必要なことがあります。
医療法人社団および医療法人財団は、いずれも同種の医療法人とだけ合併することが可能です。合併の形態は新設合併でも吸収合併でも構いませんが、新設合併の場合も吸収合併の場合も、新設法人あるいは存続法人は消滅法人の権利義務のすべてを承継することになります。新設合併の場合には新しい定款や寄附行為の作成など、改めて法人設立のための事務手続が必要であり、この手続はそれぞれの医療法人で選任された者が共同しておこないます。このような煩雑さから、特別な事情がない限り新設合併ではなく吸収合併とする場合が多いようです。M&Aを検討する場合には、前もって対象となる医療法人の入念なデューデリジェンスを専門家に依頼しましょう。

医療法人の解散について説明してください

 

医療法人は下記の事由が生じた場合に解散となり、その際の残余財産は払込済出資額に応じて分配されます(旧法)。
・目的たる業務の成功の不能
・社員総会の決議
・社員の欠亡
・破産手続開始の決定
・他の医療法人との合併
・設立認可の取消
平成19年4月以前(旧法)では、法人の持分を売却することで法人財産であるところの医療機器やカルテなど、すべての資産負債を譲渡することが可能です。値段は医療機器などの資産から未払金などの負債を差し引いた純財産のほか、一般的に診療所の収益力も加味されるので今まで培ってきた暖簾(診療所の営業権)も無駄にはなりませんし、新しく始める方にとっても開業当初の収入不足に悩まされることはありません。
法人の持分である非上場の株式等を売却した場合、売却価格から出資額または購入価格を差し引いた金額を譲渡所得として申告します。譲渡所得は他の所得とは別の申告分離課税になり、所得税と住民税を合わせて20%の税率となります。また、法人売却にともなって役員を交代するので、先に退職金の支給を受けておくのもよいでしょう。退職金の支給によって売却価格が下がるうえに、退職所得(分離課税)は税務上有利な設定なので検討するべきです。
平成19年4月以前(旧法)では、買い手がいないときには知事の認可を得て法人の清算手続きをとることになります。つまり、個別の財産を一つ一つもしくは一括して売却して未払金などの負債は返済し、残額を各出資者に持分に応じて分配することになります。出資額限度法人の場合には出資額を限度としての払戻しであり、解散により残余財産の分配を受けた出資者は、交付を受けた金銭が法人の資本金等の額を超える際にはその差額を配当所得として申告しなければなりません。この場合、配当所得は他の所得と合算して計算して所得税と住民税が算出されます。通常は配当所得よりも退職所得の方が有利になることが多いので、先に役員退職金の支給を受けておいて退職所得として申告することも検討が必要です。解散や譲渡を検討している場合は残余財産のことを考慮して、役員報酬や退職金を適切に設定するなど計画的に運営していくのが大切です。
ただし、平成19年4月以降に認可された基金拠出型の医療法人では、非営利性の観点から財産の分配ができなくなりました。これまでは、収益が出た法人を利益の分配目的で意図的に解散させるという、医療法人の根本にある非営利性を否定する行為を排除できない問題がありました。そのため平成19年4月以降に設立された医療法人では、解散時の残余財産は国や地方公共団体、あるいは他の医療法人等に帰属させることとなったのです。今後は、後継者が決まっていない医療法人での設備投資や資産運営など、慎重に検討しましょう。

医療法人の業務内容について説明してください

 

医療法人には、本来業務と付帯業務があります。まず、医療法人は病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所または介護老人保健施設の開設を目的として設立される法人のことをいいます(医療法第39条)。これが本来業務です。
次に、医療法人はその開設する病院や診療所、または介護老人保健施設の業務に支障のない限り、定款または寄附行為の定めるところにより次に掲げる業務の全部または一部を行うことができます。また、医療法人は上記により、本来業務の他に医療法第42条各号に定められている業務を行うことができます。しかし、附帯業務については、委託すること、または本来業務を行わず、附帯業務のみを行うことは医療法人の運営上、不適当であるとされています(医療法第42条)。これが附帯業務であり、次のようなものがあります。
・医療関係者の育成または再教育(看護専門学校、リハビリテーション、専門学校)
後継者等に学費を援助し医学部等で学ばせることは該当しない。
・医学または歯学に関する研究所の設置(腫瘍医学研究所、臨床医学研究所)
設置目的が医療法人の目的の範囲を逸脱するものでないこと。
・医療法第39条第1項に規定する診療所以外の診療所の設置(巡回診療所、へき地診療所)
医師等が常時勤務していない診療所でもよいとする。
・疾病予防のために有酸素運動を行わせる施設{メディカル・フィットネス(厚生労働省令の施設要件を満たすもの)}
「厚生労働大臣の定める基準」については、平成4年7 月1日厚生省告示第186条 を参照のこと。
・疾病予防のために温泉を利用させる施設{クアハウス(厚生労働省の施設要件を満たすもの)}
「厚生労働大臣の定める基準」については、平成4年7 月1日厚生省告示第186条を参照のこと。
・有料老人ホームの設置{サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)}
高齢者住まい法に規定するもの。
その他保健衛生に関する業務については、厚生労働省より通知が出されており、主に以下の業務が運営可能となっています。
・衛生事業(薬局、施術所、衛生検査所)
・介護事業(訪問看護ステーション、介護福祉士養施設、ケアハウス、ホームへルパー養成研修事業)
・高齡者支援(高齢者等の介護予防、生きがい活動支援事業、在宅介護支援事業)
・社会福祉関係(難病患者等居住生活支援事業、乳幼児健康支援一時預かり事業)
・患者の送り迎え(介護保険法に規定する訪問介護その他一定の事業と連続して、または一体としてなされる患者等の有償移送行為で道路運送法に規定されているもの)

社員総会と理事会について説明してください

 

医療法人は、医療法人を構成する社員で組織される「社員総会」と、役員である理事で組織される「理事会」で成り立っています。社員総会は法人の最高意思決定機関であり、株式会社の株主総会と同じ役割と権限を持っています。法人運営の重要な事項については社員総会の議決が必要であり、議決を有する事項は法人の定款の規定に従うこととなります。理事会は理事によって構成され、業務内容を執り行うための意思決定のほか、組織運営上必要な様々な活動をおこないます。また、理事のうち1人は理事長とし、原則的に医師(歯科医師)の中から選出しなければなりません。理事会で選出された理事長は医療法人を代表し、その業務のすべてにわたって総括することとなります。例として、会計年度が4月1日~3月31日で、3月と5月に定時総会を開催する場合は以下のようになります。
定時総会
3月開催定時総会
・翌年度の事業計画の策定
・翌年度の予算の決定
・翌年度の借入金限度額の決定
5月開催社員総会
・前年度決算の決定
・剰余(欠損)金の処理
・役員の改選(任期満了の年のみ)
臨時総会
・社員の入社および除名の決定
・社員の入退社に伴う出資持分の変更および払い戻し
・定款の変更
・基本財産の設定および処分(担保提供を含む)
・基金申込みの承認
・事業計画の変更
・予算の変更
・役員の改選(理事・監事に欠員の生じたときおよび増員)
一般的に議事は出席した社員(過半数の出席)の議決権の過半数で決定し、可否同数の際には議長が決するものとなります。ただし、解散の議決には社員の3分の2以上が出席し、総社員の4分の3以上の同意が必要です。また、会議の議決事項につき特別の利害関係を有する者は、当該事項につきその議決権の行使が不可能となっています。なお、株式会社と異なる点として、社員は社員総会において出資額(拠出額)の大小にかかわらず1個の議決権を有しています。

医療法人の理事長について説明してください

 

医療法人の理事のうち1人は、医療法人を代表する理事長として業務を統括しなければなりません。また、理事長は医師または歯科医師である理事の中から選任しなければなりません(医療法46条の3)。ただし、都道府県知事の認可を受ければ、医師または歯科医師でない理事を理事長とすることも可能です。理事会での権限ということでは、理事長も他の理事と同様です。理事長は対外的にも社内的にも法人を代表する医療法人の運営が職務であり、医療機関の経営者としてリーダ一シップをとらなければなりません。よって、理事長には医療機関の経営者としての能力も求められます。
医療に関する知識の深さということで、原則的に理事長が医師または歯科医師でなければならないのですが、実務上、法人の代表者に要求される能力や経営管理能力も要求されます。医師や歯科医師でなくても経営管理能力があり、医療に対する造詣の深い方なら理事長にふさわしいでしょう。時代の要請として、医療機関の経営管理者の育成が強く求められます。医師、歯科医師でない理事のうちから理事長に還任することができる場合の要件は次のようになっています。
・理事長が死亡し、または重度の傷病により理事長の職務を継続することが不可能となった際に、その子女が医科または歯科大学(医学部又は歯学部)在学中か、または卒業後、臨床研修その他の研修を終えるまでの間に、医師または歯科医師でない配偶者等が理事長に就任しようとする場合
・次に掲げるいずれかに該当する医療法人
1.特定医療法人または特別医療法人
2.地域支援病院を経営している医療法人
3.財団法人日本医療機能評価機構がおこなう病院機能評価による認定を受けた医療機関を経営している医療法人
・候補者の経歴、理事会構成等を総合的に勘案し、適正かつ安定的な法人運営を損なう恐れがないと都道府県知事が認めた医療法人
理事長に変更があった際にも、都道府県への「役員変更届(重任含む)」が必要です。また、理事長の氏名・住所は登記事項となります。医療法人設立は、節税面や資金繰り負担の軽減など多くのメリットがありますが、設立を急ぐあまり安易に理事長を選出してしまうとトラブルの原因になります。設立後に医師でないものを理事長に変更する場合は、あらかじめ変更後の決めごとを書面にしておきましょう。

« Older Entries Newer Entries »
Copyright(c) 2010 xxx All Rights Reserved.